52.『古典落語』「親子酒(おやこざけ)」
江戸の町に住む父子は、そろって大の酒好き。毎晩のように盃を重ねては、すっかり酔いどれてしまう。ある日、そんな自堕落な暮らしに気づいた父親は「このままではいかん」と心を改め、「今日から断酒じゃ」と宣言。息子も「親父がやめるなら、俺もやめる」と二つ返事。こうして、親子の酒断ちは始まった。

最初のうちは、二人とも我慢を続ける。酒場の誘いも断り、長屋では「親子して真人間になった」と噂されるほど。だが、日が経つにつれ、体の奥からムズムズと酒の虫が騒ぎ出す。ある夜、父は「息子が先に破ったら自分も飲める」とふと思いつき、そっと様子をうかがいに息子の部屋へ。すると、息子も「親父が先に飲むに違いない」と、これまたそっと父の部屋を覗きに行っていた。

お互いに相手を気にして行き来を繰り返すうちに、とうとう二人は廊下で鉢合わせ。「おう、どこ行く?」「いや、ちょっと…」と口を濁し合い、気まずい空気が流れる。しばし沈黙の後、父がぽつりと「実は、飲みたくなったんだ…」と打ち明ける。すると息子も「俺も…我慢できなかった」と涙ぐむ。互いを思いやる気持ちがにじみ出て、ついに二人は酒を手に取り、「今宵だけ」と杯を交わすのだった。

一杯、また一杯と盃は進み、やがて親子はすっかり酔っぱらう。だが、酔った勢いで口にしたのは、「お前が飲まなきゃ、俺は我慢できた」「親父こそ、先に破ると思った」と、互いを責めるような言葉。最後は「誰のせいだ!」と怒鳴り合いながらも、酒の力でまた笑い合う。江戸の夜は更け、今日もまた親子酒がしみじみと、そしてにぎやかに、長屋の一隅に溶けていった。

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