『宮沢賢治・光と風の物語』第二十回「鹿踊りのはじまり」第4話 嘉十の驚きと鹿踊りの始まり/4話
嘉十が木陰から見守る中、六匹の鹿は白い手ぬぐいを囲み、歌うように鳴きながら輪になって踊り続けた。夕日は草原を金色に染め、鹿たちの角や背中を美しく輝かせる。嘉十は手ぬぐいを取り戻すことも忘れ、不思議な舞に心を奪われた。

鹿たちは声と足並みをそろえ、跳ねたり頭を下げたりしながら、ますます楽しそうに舞った。嘉十には、その歌が鹿たちの言葉のように聞こえた。人間の知らない野原の喜びを目の前にして、嘉十は息をするのも忘れ、胸を震わせながら静かに見つめ続けた。

夢中になった嘉十が思わず身を乗り出すと、足元の小枝がぱきりと鳴った。鹿たちは一斉に動きを止め、耳を立てて木陰を見つめる。嘉十も息をのみ、互いの視線が交わった。次の瞬間、鹿たちは白い尾を翻し、手ぬぐいを残したまま林の奥へ駆け去った。

静かになった草原へ出た嘉十は、残された白い手ぬぐいを拾い上げた。そして、先ほど見た鹿たちの歌と足運びを思い出し、夢中で跳ねたり地面を踏んだりした。その不思議な踊りは人々へ伝わり、やがて鹿の姿や動きを表す「鹿踊り」の始まりになったという。

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