よもやま文庫『宮沢賢治・光と風の物語』第二十回「鹿踊りのはじまり」第3話 鹿たちの歌と踊り/4話
六匹の鹿は白い手ぬぐいを囲み、互いに角を寄せたり離したりしながら、にぎやかに話し始めた。やがて一匹が仲間へ「自分が歌うから、みんなで回れ」と呼びかける。木陰に隠れた嘉十は、鹿が人間のように言葉を交わす不思議な光景を、息をひそめて見守った。

鹿が野原や風、山の景色をたたえる歌をうたい始めると、ほかの鹿たちは調子を合わせ、手ぬぐいの周りをぐるぐる回った。細い脚は草を軽やかに踏み、角は夕日の中で美しく揺れた。嘉十には、歌声が風や草の音と一つになり、野原全体が踊っているように感じられた。

歌と踊りは次第に激しくなり、鹿たちは高く跳び上がったり、頭を振って角をきらめかせたりした。嘉十は手ぬぐいを取り戻しに来たことも忘れ、自分まで鹿たちと一緒に踊っているような気持ちになった。人間と鹿を隔てていた境目が、夕暮れの光の中で消えていった。

鹿たちは歌いながら何度も輪を巡り、最後には声と足並みをそろえて美しく舞った。夕日は野原を金色に染め、白い手ぬぐいも舞台の飾りのように輝いた。嘉十は物音を立てることさえ忘れ、鹿たちだけが知る喜びの世界を、胸を震わせながら見つめ続けた。

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