48.『江戸小咄』「唐相撲(とうずもう)」
ある日、長屋の与太郎が町角で大声を張り上げる。「唐人が相撲を取るってよ!しかも、空を飛ぶんだとさ!」
聞きつけた子どもたちや町人がざわめき、物見高い連中がぞろぞろと与太郎の後についていく。
場所は、裏手の空き地。そこに据えられた小さな土俵と、「唐相撲」と書かれた札がぶら下がる屋台風の見世物小屋。まるで胡散臭さ満点の出し物だが、珍しさに惹かれて人が集まる。

笛の音とともに現れたのは、絹のような衣をまとった痩身の「唐人力士」。体格は小さく、どう見ても相撲取りには見えない。
対するは、町内でも評判のごつい男、熊五郎。観客は「これは勝負にならん」と笑いながら見守る。
しかし始まってみれば、唐人はくるりと身をかわし、まるで舞うような動きで熊五郎を翻弄。ついには足払い一閃、熊五郎があっさり転ぶ。
「おお、飛んだぞ!」「ほんとに浮いた!」と観客の声が上がる。

勝ち誇る唐人が土俵上で得意げにポーズを決めると、どこからともなく出てきた仲間たちが見物人に拍手を促す。
そのとき、与太郎がぽつりとつぶやく。「ねぇ、あの唐人、昨日までうちの裏に住んでた按摩じゃねぇか?」
一瞬にして空気が変わる。見物人たちが目をこすり、よく見れば、たしかに顔見知りの按摩。衣装を変え、鬘をかぶり、「唐人」になりきっていたのだ。

見抜かれた按摩はばつが悪そうに笑い、「ご愛嬌、ご愛嬌。江戸の唐風ってことでひとつ」と頭を下げる。
それを見たご隠居が言う。「騙されたほうも、楽しんだんだ。江戸っ子はそういう粋なところを笑って受け流すもんさ」
与太郎も「なんだかんだで、今日はいい見世物でしたな」とにっこり。
――江戸の町では、嘘も芸のうち、笑いもまた粋のひとつでござんす。

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