110.日本おとぎ噺 「宝の下駄(たからのげた)」
昔、ある山里に正直で働き者の若者が住んでいました。毎日山へ薪を取りに行き、質素な暮らしをしていました。ある冬の日、雪深い山道で道に迷った若者は、古びたお堂を見つけます。お堂の中には一足の木の下駄が供えられており、まるで長い間誰も訪れていない様子でした。若者は「きっと神仏のもの」と考え、雪を払い清め、お堂をきれいに掃除しました。すると不思議な声が響き、「その下駄を持ち帰るがよい」と告げられます。

若者は恐る恐る下駄を持ち帰り、家の床の間に大切に置きました。その晩、不思議なことに下駄の間から黄金がこぼれ出し、部屋を明るく照らしました。若者は驚きつつも、欲張らずに金を必要な分だけ使い、村人たちにも分け与えました。村は次第に活気づき、人々は若者の正直さと慈悲深さを褒めたたえました。

その噂を聞きつけた欲深い隣村の男が、自分も宝を手に入れようと山へ向かいました。男はお堂を見つけると、乱暴に扉を開け、下駄を持ち帰ります。しかし、男は下駄を床に投げ出し、「もっと出ろ、もっと出ろ」と欲張って叫びました。その瞬間、下駄から金ではなく煤や泥があふれ出し、家中が真っ黒に汚れてしまいました。

やがて欲深い男は村を追われ、二度と宝を求めることはありませんでした。一方、若者は宝の下駄をお堂へ返し、感謝の祈りを捧げます。それ以降、若者の家は慎ましくも幸せに暮らし、村人たちも心を改めて欲を抑え、互いに助け合って暮らすようになったといいます。

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