『宮沢賢治・光と風の物語』第二十回「鹿踊りのはじまり」第2話 六匹の鹿と白い手ぬぐい/4話
嘉十が野原へ戻ると、六匹の鹿が白い手ぬぐいを囲んでいた。鹿たちは見慣れない物を警戒し、少し離れた場所から首を伸ばして眺めている。風が吹くたびに手ぬぐいの端が動き、鹿たちは驚いて後ずさりした。

一匹の鹿が恐る恐る近づき、手ぬぐいの匂いを嗅いだ。すると別の鹿も近寄り、角や前足で確かめようとする。鹿たちは、それが生き物なのか、食べ物なのか分からず、互いに顔を見合わせながら、低い声で相談するように鳴いた。

やがて一匹が手ぬぐいを角に引っかけると、白い布がふわりと舞い上がった。鹿たちは一斉に跳びのき、驚いて野原を駆け回った。しかし危険がないと分かると、手ぬぐいの周りを飛び跳ね、角を振りながら、まるで踊るように動き始めた。

木陰に隠れていた嘉十は、鹿たちの楽しげな動きに目を奪われた。手ぬぐいを取り戻すことも忘れ、息をひそめて見守り続ける。夕日が野原を金色に染める中、六匹の鹿の不思議な踊りは、静かに、そしてますます美しく続いていった。

このブログへのコメントはmuragonユーザー限定です。