167.日本おとぎ噺 「犬の碑の話(いぬのひのはなし)」
昔、ある山里に一匹の犬が住んでいた。その犬は村人に飼われていたわけではなく、野良犬であったが、不思議と村の人々を慕い、村の子どもたちとよく遊び、老人の荷物を追いかけて見守るなど、人懐っこい存在であった。村人たちも犬を大切に思い、食べ物を分け与え、犬は次第に村の守り神のような存在になっていった。村には大きな往来があり、夜になると盗賊や野生の獣が現れることがあったが、その犬は吠えて人々に危険を知らせ、皆を助けていた。

ある晩、村に旅の僧がやってきた。僧は村に泊めてもらうこととなり、犬はその夜も村を見回っていた。ところが、深夜に山賊が押し入ろうとしたとき、犬が猛烈に吠えて飛びかかり、盗賊を追い払った。僧や村人は命拾いし、犬の勇敢さを称えた。しかしその戦いで犬は深い傷を負ってしまい、翌朝には力尽きて息を引き取った。村人たちは大いに悲しみ、犬のために涙を流した。

村人たちは犬の恩義を忘れまいと、村のはずれに小さな碑を建てた。「犬の碑」と呼ばれるその石碑には、村を守った忠犬の功績が刻まれ、参拝する者が後を絶たなかった。やがて犬の碑は村の信仰の対象となり、旅人も立ち寄って手を合わせるようになった。犬は死してなお村を守る存在となり、人々の心に生き続けたのである。

その後、村は平穏を保ち、人々は互いに助け合いながら暮らした。「犬の碑」は代々語り継がれ、村人の誇りとして今に残る。犬の勇気と忠義は、人の心を結びつける力となり、「村を守るとはこういうことだ」と、子どもたちに伝えられるようになった。犬の存在は、やがて伝説として語り継がれ、石碑の前を通る人々は必ず深く一礼するようになった。
