『知られざる 宮沢賢治童話 』第二回「 山男の四月」第1話 山男、四月の山から町へ/全4話
四月の西根山。雪を残した山々が白く輝き、枯れ草の間には紫色のかたくりが咲いていた。金色の大きな目と、ばさばさの赤い髪をした山男は、檜林の中で兎を追っていた。しかし兎は捕まらず、飛び出した山鳥へ勢いよく飛びかかり、ようやく獲物を手に入れた。

山男は山鳥を手に、得意そうな顔で森を出た。日当たりのよい枯れ芝へ獲物を置き、青空を見上げて寝転がる。暖かな風には草の匂いが漂い、白い雲が東へ流れていた。山男は、甘い飴を食べたいと思ったり、雲が自由に動く理由を考えたりしながら、春の日差しの中でぼんやり過ごした。

しばらくすると、山男は頭も足もふわふわ軽くなり、雲に運ばれるような気持ちで山を歩き始めた。いつの間にか七つ森まで来た山男は、その先に人間の町があることを思い出す。この姿のまま町へ入れば、人々に恐れられて追い払われるに違いない。山男は立ち止まり、どうするべきか考えた。

山男は人間に怪しまれないよう、一人前の木こりの姿へ化けた。粗末な仕事着をまとい、山仕事の道具を持つと、のそのそと町の入口へ向かう。山で暮らしてきた山男にとって、人間の町は珍しいものばかりだった。少し不安を感じながらも、山男は好奇心に誘われ、にぎやかな町の中へ入っていった。
