『知られざる 宮沢賢治童話 』 第一回 「かしわばやしの夜」第1話 柏林に迷い込む清作/全4話
清作は夕暮れの野原で、稗の根元に鍬で土をかけていた。銅色の太陽は群青色の山裾へ沈み、白樺の幹も白い粉を吹いたように見える。辺りが寂しくなったころ、柏林の方から「鬱金しゃっぽのカンカラカンのカアン」という、調子外れの声が響いてきた。

清作は驚いて鍬を投げ出し、足音を忍ばせながら柏林へ走った。林の入口まで来たとき、突然、背後から襟首をつかまれる。振り向くと、赤いトルコ帽をかぶり、鼠色のだぶだぶした服と靴を身につけた、背の高い画描きが鋭い目で清作を見下ろしていた。

画描きは、鼠のように歩いていたと清作を叱った。腹を立てた清作が「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン」と叫ぶと、画描きは突然大笑いする。そして清作に風変わりな挨拶を求めた。困った清作は、空が銀のきな粉でまぶされると答え、画描きを大喜びさせた。

画描きは、自分は柏の木大王の客であり、面白いものを見せると言った。絵の具箱を担ぎ、薄暗い林の奥へ入っていく。清作も好奇心に負け、その後を追った。林の中は浅黄色の光と肉桂のような香りに満ち、若い柏の木が片脚を上げ、踊るように動いていた。

宮沢賢治の童話が続きます。このシリーズが終われば都市伝説学校の花子さん、太宰治が
始まります。