156.日本おとぎ噺 「鬼の刀かじ(おにのかたなかじ)」
昔、山あいの村に腕の良い鍛冶屋がいた。彼の作る刀は切れ味鋭く、名声は遠くまで届いていた。ある晩、村に現れた大男が鍛冶屋を訪ね、「わしの刀を打て」と言う。その目はぎらぎらと光り、ただの人間とは思えぬ風貌で、鍛冶屋は恐ろしさを覚えたが、逆らえば命はないと観念し、依頼を受けることにした。

鬼は鍛冶屋に「明け方までに名刀を仕上げよ」と命じる。鍛冶屋は火床に炭をくべ、汗を流しながら槌を振るった。鬼はそばでじっと見張り、時折鋭い視線を送る。夜は深まり、炉の炎が赤々と燃え上がり、鉄の塊は次第に刀の形をなしていく。だが時間は迫り、鍛冶屋は疲労と恐怖に震えながらも必死で槌を打ち続けた。

夜明けが近づいた頃、鍛冶屋はついに刀を打ち上げた。鬼はそれを手に取り、鋭く光る刀身を確かめる。すると、鬼は試し切りとばかりに石を一太刀で断ち割り、満足げにうなずいた。だが同時に「これほどの腕前、放しておけばいずれ我らの敵となろう」と目を光らせ、鍛冶屋に刃を向ける。鍛冶屋は死を覚悟したが、とっさに火箸を鬼の顔に投げつけ、隙を突いて逃げ出した。

鍛冶屋は夜明けとともに山を転がるように下り、村へ逃げ帰った。鬼は怒り狂い、山を揺らす声で叫んだが、日の光に追われるように姿を消した。鍛冶屋は命を取りとめたものの、二度と鬼のために刀を打つことはなかったという。それ以来、村人たちは「鬼の刀かじ」の話を恐れと畏れを込めて語り継いだのである。
