『宮沢賢治の詩と心象風景』第九回「農民芸術概論綱要」第8話 永久の未完成これ完成である/全8話
【原文】
……われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である……
【現代語訳文 】
――私たちに本当に必要なのは、銀河の果てまでも抱きしめる、澄みきった意志だ。
迷いを突き抜け、世界の悲しみを動かしてゆく、大きな力と燃えるような熱だ。
ひとりの願いを、すべての命の願いへとひろげながら、私たちは未完成の明日へ進んでゆく。

【原文】
われらの前途は輝きながら嶮峻である
嶮峻のその度ごとに四次芸術は巨大と深さとを加へる
【現代語訳文 】
私たちの行く手は、光に満ちながらも、険しい峰々へ続いている。
けれど、その困難を一つ越えるたび、時と空間を超えて生まれる芸術は、いっそう大きく、深く育ってゆく。
苦しみも迷いも創造の力に変えながら、私たちは輝く未完成の道を進むのだ。

【原文】
詩人は苦痛をも享楽する
永久の未完成これ完成である
【現代語訳文 】
詩人は、悲しみも痛みも拒まず、その奥にひそむ光を受け取る。
苦しみさえ創造の炎に変え、まだ見ぬ世界へ歩みつづける。
完成とは、動きを止めた姿ではない。
永遠に変わり、求め、つくりつづけること――その未完成の歩みこそが、ほんとうの完成なのだ。

【原文】
理解を了へばわれらは斯る論をも棄つる
畢竟ここには宮沢賢治一九二六年のその考があるのみである
【現代語訳文 】
この言葉の意味をほんとうに悟ったなら、私たちは、こうした理論さえ静かに手放してよい。
思想は永遠の答えではなく、新しい歩みへ渡るための橋なのだから。
結局ここに記されているのは、ただ一九二六年という時の中で、宮沢賢治が抱いた一つの願いと考えにすぎない。
