64.『古典落語』「 猫の皿(ねこのさら)」
旅から江戸へ戻る途中の骨董屋の男、ふと立ち寄った宿場町の茶屋で一服する。そこには猫が一匹、器用に茶碗で飯を食っているのを見て、目を丸くする。猫が使っているのは、なんと名器と名高い「平安の梅鉢の皿」。骨董の目利きである男は、その皿の価値に驚きつつも、商機を感じてひと芝居打つことを思いつく。

男は茶屋の主人に声をかけ、「いやあ、この猫が気に入りましてな。どうでしょう、譲ってくれませんか」と持ちかける。主人は面食らいながらも、「猫なんぞでよければ」と承諾。そこで男は銀貨を出し、「では、これで」と話をまとめる。さらに、「可愛い猫のために、せめていつもの皿も一緒に」と話を進め、猫が使っていた名器の皿もつけてくれと願い出る。

だが、ここで茶屋の主人がにやりと笑って言う。「へえ、あの皿で猫に飯を食わせてると、よくこうして猫を買いにくる奴がいましてね。これで三匹目です」――つまり、骨董屋の魂胆はすっかりお見通し。皿は譲らぬが猫は売る、というしたたかさに、今度は男のほうが面食らう。江戸の町には、素人風を装いつつも一筋縄ではいかぬ商人がいるのだ。

結局、骨董屋は猫だけを連れ、皿は手に入らず。茶屋の主は何食わぬ顔で、猫にまた飯を盛る。皿はそのまま、次なる「目利き」を待つばかり。
この一席、江戸の町に息づく商いの機知と、人を喰ったような洒落が香る。欲と笑いが紙一重に同居する、粋で滑稽な江戸の風情が、ひとつの皿に映し出されるようであった。
