144.日本おとぎ噺 「小判の虫ぼし(こばんのむしぼし)」
昔、ある村に正直者の百姓が住んでいた。畑仕事を終えて帰る途中、道端に古びた財布を見つける。中を覗くと、そこには輝く小判がぎっしり詰まっていた。百姓は驚きつつも「これは落とし物に違いない、きっと持ち主が困っておる」と思い、持ち帰って家の囲炉裏の脇に置いた。その夜、布団の中でも小判の光が頭から離れず、正直であろうとする気持ちと欲望のはざまで心が揺れる。

翌朝、百姓は小判を改めて確かめようと、家の縁側に出して日向に広げた。「一晩たったが虫も湧かぬか、やっぱり本物じゃろうか」と呟きながら一枚一枚を並べていく。村人が通りかかり、その様子を見て「小判を虫干ししておるのか」と声をかけると、百姓は慌てて「いや、拾ったものだ。持ち主を探しておる」と答えた。噂はすぐに広まり、村人たちは「小判の虫ぼし」と笑い話にするようになった。

やがて落とし主が現れた。裕福な商人で「大切な金を落として困っていた」と涙ながらに礼を言う。百姓はすぐに財布ごと返し、「わしには過ぎた宝だ」と笑った。商人はその正直さに感心し、「このような人にこそ小判を託したい」と数枚を礼に渡そうとする。しかし百姓は「他人の金は受け取れぬ」と固辞した。村人たちはその話を聞き、「あの百姓は欲に迷わぬ人だ」とさらに噂を広げた。

結局、百姓は一文も受け取らず、畑仕事に励む日々を続けた。村人たちは「小判を虫ぼしした正直者」として彼を敬い、その話は長く語り継がれた。金よりも清らかな心を持つことこそ、何よりの宝であると知ったからである。こうして「小判の虫ぼし」という不思議な名の昔話は、欲と正直の対比を人々に伝える教えとなった。
