50.『古典落語』「三年目(さんねんめ)」
江戸の町に住む商家の若夫婦。器量よしで気立てもよい女房に、旦那も惚れ込み、二人は仲睦まじく暮らしていた。だが、女房が若くして病に倒れ、帰らぬ人となってしまう。葬儀が終わっても、旦那は悲しみに暮れ、日々の営みすらままならない。長屋の人々も心配するほどの落ち込みようであった。

月日が流れ、女房の三回忌が過ぎても、旦那の悲しみは癒えぬまま。だが、女房の三年目の命日が来る頃、不思議なことが起こる。夜、ふと目覚めた旦那の前に、亡き女房の姿が現れたのだ。夢か幻かと思いきや、その姿は確かに、あの日のままの女房であった。

女房は語る。「あの世とこの世のあいだに留まっていたが、ようやく三年目を迎えた今、戻ってこられたのです」と。旦那は涙を流して喜び、二人は再び共に暮らし始める。町中がこの奇跡を噂し、人々は「情の力で死人も帰る」と驚く。しかし、しばらくして女房が不意に問う。「ねえ、あなた。わたしが死んでいた三年のあいだ、まさか別の女と…?」と。旦那はうろたえながらも「そ、それは…」と口ごもる。

問い詰める女房としどろもどろの旦那。三年の空白がじわりと夫婦のあいだに影を落とす。結局、女房は怒って姿を消してしまう――やっぱり、あの世とこの世の距離は、そう簡単に埋まるものではなかった。江戸の町では、「三年目にゃ、女房も幽霊になる」と、しばらくのあいだ笑い話になったとか。人情と怖さが紙一重の、まさに落語らしい怪異譚である。

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