49.『古典落語』「妾馬(めかうま)」
江戸の町、長屋に住む八五郎(やつごろう)は、大酒飲みで喧嘩早いが、どこか憎めない江戸っ子。そんな彼に妹がひとりおり、美しく賢いことで評判だった。その妹がなんと、ある大名のお殿様の目にとまり、奥に召し抱えられることに。八五郎は「おいらの妹が殿様の妾!?」と呆気にとられながらも、「えらくなったら、酒の一升も奢ってもらいたいもんだ」と嘯くのだった。

時は流れ、妹はなんと子を産み、その祝いの席に八五郎が招かれることになる。初めてのお城詰め。着る物も持たぬ八五郎だが、ご隠居のつてで裃(かみしも)を借り、江戸っ子らしいキメ姿で登城する。いざお殿様の前に出ると、緊張のあまりガチガチ。「お主が八五郎か。妹が世話になっておる」と声をかけられれば、「いえいえ、あれは昔から、妾にしてもらいたがっておりまして…」と余計な一言で場を凍らせる。

だが、そこは八五郎の憎めぬ人柄と江戸弁の妙。お殿様も腹を抱えて笑い出し、酒が進むうちに打ち解けていく。八五郎は遠慮なく杯を重ね、いつしか座敷で高鼾(たかいびき)。「あいつは面白い奴だな」と、お殿様はむしろ気に入ってしまう。宴のあと、妹と再会し、「大名のお屋敷でも、お前はお前のままだな」と笑う妹に、八五郎は少し照れくさそうにうなずく。

祝いの席の帰り道、八五郎は酔いに任せて長屋の仲間にこう吹聴する。「なんせ、お殿様が“妾馬”の兄貴だってよ。おいらもえらくなったもんだ!」――この一言が、噺のタイトルの由来となる。江戸の情と笑いが交錯する一席。武家と町人、身分の垣根を超えた人情が、江戸の空気にしっかりと息づいている。

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