47.『江戸小咄』「大石(たいせき)」
ある日、ご隠居が庭先で石を愛でていた。与太郎が「なんで石なんざ、じっと見てるんで?」と首をかしげる。隠居はゆっくりと答える。「これはな、大石といって、武士の心意気を思い出させるもんなんだよ」。与太郎は「石ころで?」とぽかんとするが、隠居は微笑んで続ける。「見た目はただの石でも、そこに“重み”を見出すのが粋ってもんさ」。

それを聞いた与太郎、翌日には大八車に石を載せ、町を引きずり回していた。「あっしのも“大石”でさァ! 見てくだせぇ!」と、長屋の連中に披露するが、皆は腹を抱えて笑う。「こいつは“重み”ってより、ただの“重荷”だろ」と冷やかす。だが与太郎は得意げに、「いや、心意気っすよ、心意気!」と胸を張る。

ところがその石、通りに落としてしまい、往来の邪魔になってしまう。役人まで出てきて大騒ぎ。「なんでこんな石を運んでるんだ」と詰問されると、与太郎はしどろもどろになりながら、「ご隠居が“大石は心の象徴だ”って……」と弁解。役人も呆れながら、「お前さんの心意気は買うが、迷惑はかけるなよ」と言い渡す。

事後、ご隠居は与太郎に言う。「お前さん、少しばかり早とちりしたようだな。でもまあ、石を愛でるより、動かすほうが性に合ってるのかもな」。与太郎は笑って答える。「へい、でも今度は、もうちっと軽めの“心意気”にしときやす」。
――江戸の町には、石にも笑いにも、人の想いが乗ることがあるのでござんす。

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