109.日本おとぎ噺 「仙人みかん(せんにんみかん)」
むかし、南国の山あいの村に、貧しいが働き者の若者が住んでおった。冬になると畑の作物も絶え、飢えをしのぐのがやっとであった。ある寒い日、山で薪を集めていた若者は、岩陰で小さな老人が凍えているのを見つけた。着物は薄く、顔色は青ざめている。若者は自分の外套を脱ぎ、老人にかけて温めた。老人は「命を助けてもらった礼じゃ」と微笑み、若者をどこかへと導いた。

老人が連れて行ったのは、山奥の奇妙な庭園。そこには真冬だというのに青々とした葉が茂り、黄金色の実がたわわに実っていた。老人は「この実は仙人みかんと呼ばれる不思議な果じゃ。一つ食べれば一年、寒さにも飢えにも苦しまぬ」と告げ、籠いっぱいにみかんを与えた。若者は礼を言い、村へ持ち帰った。そのみかんを分け与えると、村人たちもみな健康になり、冬を越すことができた。

だが、この噂を聞きつけた欲深い隣村の男が、若者のもとへやってきた。「そのみかんを売れば大金になる」とそそのかし、若者から残りのみかんを譲り受けた男は、町で高値で売り始めた。しかし、みかんは次第にしぼみ、ただの酸っぱい果実に変わってしまった。町の人々は怒り、男は恥をかいて追い返された。若者のもとに戻った男は、仙人の居場所を問い詰めたが、若者にも場所は分からなかった。

その後、若者は山で再び老人に出会った。老人は「欲に目がくらむ者には、この果は役に立たぬ」と静かに語った。そして若者にもう一度、みかんを授けたが、「村の者と分け合い、感謝の心を忘れぬように」と念を押した。若者はその言葉を守り、村人たちは毎年冬を無事に越せるようになった。それ以来、仙人みかんの話は、村の宝として語り継がれたという。

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