69.『江戸小咄』「灸(きゅう)」
ある日、長屋の与太郎がひどい肩こりに悩まされ、ご隠居の勧めで灸をすえることになる。
「効くってえのは、ちと熱いもんさ」とご隠居が笑う。
与太郎は渋い顔をしつつも、灸師の婆さんに身を預けることにする。

いざすえてもらう段になると、熱さにびっくりして跳ね上がる与太郎。
「熱ぇ!これは拷問でさぁ!」と騒ぎ、隣の部屋まで大騒ぎ。
それでも灸師は手を止めず、「こらえてこそ、効くのさ」と平然。
ご隠居は「江戸っ子なら、熱さも粋に受け止めな」と茶をすする。

数日後、肩こりはすっかり治り、与太郎は上機嫌。
ところが、灸の跡が痕になって残ってしまった。
風呂屋でそれを見られた町の衆に、「与太、何の罪で火責めにあったんでぇ」とからかわれ、赤面。
「やっぱり“粋”は、見えぬところでやるもんでさぁ……」とぼやく与太郎。

それを聞いたご隠居、にやりと笑って一言。
「お灸も、人も、跡が残るほどが効くってもんさ」
――江戸の町では、熱さも恥も、笑いに変えてこそ“粋”なのでござんす。
